学校環境衛生基準では、教室等の換気について二酸化炭素(CO2)濃度は1,500ppm以下であることが望ましいと定められています。この基準は令和8年(2026年)4月1日施行の改正でも変更されていません。今回の改正で変わったのは、エチルベンゼンの基準値と揮発性有機化合物の測定方法です。
この記事では、学校環境衛生基準の教室等に関する項目を一覧で整理したうえで、換気基準の意味と、令和8年改正で何が変わったのかを、文部科学省の告示・通知にもとづいて解説します。
学校環境衛生基準とは
学校保健安全法第6条にもとづき、文部科学大臣が定める基準です。学校の設置者は、この基準に照らして学校の適切な環境の維持に努めなければならないとされています。
対象は、学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校)です。
基準は5つの区分に分かれており、このうち教室の空気環境に関わるのが「第1 教室等の環境に係る学校環境衛生基準」です。
学校環境衛生基準の全体像
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 教室等の環境(換気・温度・湿度・照度・騒音・揮発性有機化合物 など) |
| 第2 | 飲料水等の水質及び施設・設備 |
| 第3 | 学校の清潔、ネズミ・衛生害虫等、教室等の備品の管理 |
| 第4 | 水泳プール |
| 第5 | 日常における環境衛生(毎授業日の点検事項) |
この記事で扱うのは第1と、その日常点検にあたる第5です。
教室等の環境に係る基準【一覧】
令和8年文部科学省告示第35号による改正を反映した、現行の基準値です。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 換気(二酸化炭素) | 1,500ppm以下が望ましい |
| 温度 | 18℃以上28℃以下が望ましい |
| 相対湿度 | 30%以上80%以下が望ましい |
| 浮遊粉じん | 0.10mg/㎥以下 |
| 気流 | 0.5m/秒以下が望ましい |
| 一酸化炭素 | 6ppm以下 |
| 二酸化窒素 | 0.06ppm以下が望ましい |
| ホルムアルデヒド | 100μg/㎥以下 |
| トルエン | 260μg/㎥以下 |
| キシレン | 200μg/㎥以下 |
| パラジクロロベンゼン | 240μg/㎥以下 |
| エチルベンゼン | 370μg/㎥以下(令和8年改正) |
| スチレン | 220μg/㎥以下 |
| ダニ又はダニアレルゲン | 100匹/㎡以下又はこれと同等のアレルゲン量以下 |
| 照度 | 教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は300lx。教室及び黒板の照度は500lx以上が望ましい |
| まぶしさ | 黒板面から見て、外側15°以内の範囲に輝きの強い光源がないこと 等 |
| 騒音レベル | 窓を閉じているとき LAeq 50dB以下、窓を開けているとき LAeq 55dB以下が望ましい |
換気の基準:CO2は1,500ppm以下が望ましい
なぜ「1,000ppm」ではなく「1,500ppm」なのか
建築物衛生法(ビル管法)で定められている室内CO2濃度の基準は1,000ppm以下です。学校の1,500ppmはそれより緩い数値ですが、これは「学校は空気が悪くてよい」という意味ではありません。
教室は、事務所などに比べて単位面積あたりの在室人数が非常に多い空間です。40人の児童生徒が同じ部屋にいれば、呼気によるCO2の発生量はオフィスの比ではありません。一方で、多くの学校は機械換気設備ではなく窓開けによる自然換気に頼っています。この現実を踏まえた到達可能な水準として設定されているのが1,500ppmです。
逆に言えば、1,500ppmを超えている教室は、かなり明確に換気が不足している状態だと考えてください。
「望ましい」という表現の意味
換気の基準は「1,500ppm以下であることが望ましい」という書き方になっています。浮遊粉じんやホルムアルデヒドが「〜以下」と言い切っているのと対照的です。
これは、外気温や騒音などの条件によって常時この水準を保つことが難しい場合があるためです。ただし努力義務であって無視してよいという意味ではなく、超えている状態が続くなら換気方法を見直す必要があるということです。実際、基準を超えた場合には「換気の励行等」による改善が求められています。
令和8年4月施行の改正点
令和8年2月27日付の通知(7文科教第1746号)および令和8年文部科学省告示第35号により、学校環境衛生基準が一部改正されました。施行日は令和8年4月1日です。
改正点1:エチルベンゼンの基準値が約10分の1に
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| エチルベンゼン | 3,800μg/㎥(0.88ppm) | 370μg/㎥(0.085ppm) |
大幅な引き下げです。エチルベンゼンは、机・いす・棚などの備品、学習に関わる塗料、油性ペン、接着剤、ホワイトボードマーカー、床ワックスなどから放散される可能性があるとされています。
実務上の注意点として、令和8年4月1日以降の定期検査では、新しい基準値への適合を確認する必要があります。また、新築・改築・改修を行った場合や、新しい備品を搬入した場合には、「学校環境衛生管理マニュアル」にもとづく検査の実施が求められます。
改正点2:揮発性有機化合物の測定方法から「容器採取法」を削除
トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレンの5物質について、測定方法から容器採取法が削除されました。検査を外部委託している場合は、委託先が対応済みかどうかを確認してください。
改正点3:換気(CO2)の基準は変更なし
ここは誤解されやすい点です。今回の改正で、換気に関する二酸化炭素1,500ppmという基準は変わっていません。温度の18℃以上28℃以下も同じです。
「学校環境衛生基準が改正された」という情報だけを見て、換気基準も変わったと思い込まないよう注意してください。改正の対象はVOC(揮発性有機化合物)まわりです。
なぜ教室はCO2が上がりやすいのか
感覚的な話ではなく、必要換気量から逆算すると理由がはっきりします。
必要換気量の考え方
人が呼吸で出すCO2の量を M(㎥/h・人)、屋外のCO2濃度を Co、室内で維持したい濃度を Ci とすると、1人あたりに必要な換気量 Q は次の式で求められます。
Q = M ÷(Ci − Co)
成人が安静にしているときのCO2発生量を約0.02㎥/h、屋外を400ppm(0.0004)として計算してみます。
| 維持したい濃度 | 計算 | 1人あたり必要換気量 |
|---|---|---|
| 1,000ppm(ビル管法) | 0.02 ÷(0.001 − 0.0004) | 約 33 ㎥/h |
| 1,500ppm(学校基準) | 0.02 ÷(0.0015 − 0.0004) | 約 18 ㎥/h |
建築設備の分野で「1人あたり30㎥/h」という数字がよく使われるのは、この計算から来ています。
40人学級で必要な換気量
この数字を教室に当てはめます。児童のCO2発生量は成人より少ないため実際の値は変わりますが、桁の感覚を掴む目的で計算します。
- 40人 × 18㎥/h = 約720㎥/h(1,500ppmを維持する場合)
- 一般的な普通教室を 64㎡ × 天井高3m = 192㎥ とすると
- 720 ÷ 192 = 1時間に約3.8回、部屋の空気を丸ごと入れ替える必要がある
住宅の24時間換気が0.5回/hであることを考えると、教室に求められる換気量がいかに大きいかが分かります。窓を閉め切った教室のCO2濃度が短時間で上がるのは、設備が悪いからではなく、そもそも在室密度が高いからです。
だからこそ、休み時間ごとの窓開けのような運用が実質的に効きます。そして、それが足りているかどうかは測らないと分かりません。
検査の回数
教室等の環境に係る検査は、項目によって回数が異なります。
- 毎学年2回:換気、温度、相対湿度、浮遊粉じん、気流、一酸化炭素、二酸化窒素、照度、まぶしさ、騒音レベル
- 毎学年1回:揮発性有機化合物、ダニ又はダニアレルゲン
日常点検(第5)
定期検査とは別に、毎授業日に行う日常点検が定められています。換気、温度、明るさとまぶしさ、騒音、飲料水の水質、雑用水の水質、施設・設備、学校の清潔、ネズミ・衛生害虫等、プール水などが対象です。
換気については、専用の測定器がなくても「外部から教室に入ったとき、不快な刺激や臭気がないか」といった観察による点検が想定されています。ただし、この方法では数値としての記録が残りません。教室にCO2モニターがあれば、日常点検を数値で行えるようになります。
臨時検査
感染症や食中毒の発生のおそれがあるとき、風水害等により環境が不潔になったり汚染されたりしたとき、新築・改築・改修等を行ったとき、新しい備品を搬入したときなどには、必要に応じて臨時検査を行うこととされています。
基準を超えたときにどうするか
検査の結果、基準に適合しなかった場合は、事後措置として速やかに改善のための措置を講じることが求められます。換気(CO2)については、実務的には次の順で考えることになります。
- まず換気の運用を見直す。休み時間ごとの窓開け、対角線上の2ヶ所を開ける、廊下側の欄間も開けるなど。運用だけで改善するケースは少なくありません
- それでも下がらないなら、換気量そのものが足りていない。在室人数に対して必要換気量を満たしているか、機械換気設備が正常に動いているかを確認する
- 設備側の対策を検討する。給気口の増設、換気設備の改修、CO2濃度に連動した換気制御の導入など
年2回の検査だけでは実態は分かりません
定期検査は毎学年2回です。当然ながら、その2回で測った値がその教室の1年間を代表しているとは限りません。
- 検査は多くの場合、換気に配慮した状態で実施されます
- 真冬に窓を閉め切った授業中の値は、検査日とはまったく違う可能性があります
- 学年・クラスによって在室人数が違えば、CO2濃度も変わります
CO2モニターを教室に常設すれば、先生と児童生徒が数値を見ながら換気のタイミングを判断できるようになります。「寒いから閉めておこう」と「1,500ppmを超えたから開けよう」では、判断の質がまったく違います。3色LEDで色表示するタイプであれば、数値を読まなくても児童生徒自身が判断できます。
また、記録機能つきの機種を使えば、授業時間帯ごとの推移をデータとして残せます。設備改修の必要性を教育委員会に説明する際の根拠にもなります。
教室のCO2濃度を記録して、改善の根拠にする
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よくある質問
学校環境衛生基準の換気基準は何ppmですか?
二酸化炭素濃度1,500ppm以下であることが望ましい、とされています。令和8年4月1日施行の改正でもこの数値は変わっていません。
建築物衛生法の1,000ppmとどちらが適用されますか?
学校の場合、学校環境衛生基準(1,500ppm)が適用されます。ただし、延べ面積8,000㎡以上の学校は建築物衛生法の特定建築物にも該当し、その場合は建築物環境衛生管理基準(1,000ppm)も適用されます。大学・高専については面積要件が3,000㎡以上となる点にも注意が必要です。
令和8年の改正で換気の基準は変わりましたか?
変わっていません。改正されたのはエチルベンゼンの基準値(3,800μg/㎥ → 370μg/㎥)と、揮発性有機化合物5物質の測定方法から容器採取法を削除した点です。
教室にCO2モニターを置くのは義務ですか?
義務ではありません。学校環境衛生基準が求めているのは定期検査の実施です。常設のCO2モニターは、その間の実態を把握し、日常的な換気判断を助けるための任意の取り組みという位置づけになります。
何台くらい必要ですか?
教室ごとに1台が基本です。同じ学校でも、階数・方位・在室人数によって濃度は変わります。まずは条件の異なる数教室(1階と最上階、南向きと北向きなど)に設置して傾向を掴み、段階的に増やしていく進め方も現実的です。複数校への一括導入や年度予算に合わせたスケジュールについてもご相談いただけます。
まとめ
- 学校環境衛生基準の換気基準はCO2 1,500ppm以下が望ましい
- ビル管法の1,000ppmより緩いのは、教室の在室密度と自然換気という現実を踏まえたもの
- 令和8年4月1日施行の改正は、エチルベンゼンの基準値引き下げとVOC測定方法の変更。換気・温度の基準は変わっていない
- 検査は毎学年2回(VOCとダニは1回)
- 年2回の検査では日常の実態は分からない。常時モニタリングは判断の質を変える